"ボクサー"を出来る限り文法的に解釈する
(2012/3/26,30,4/8,8/15)
サイモンとガーファンクルの名作、"ボクサー-The Boxer"ですが、言ってる事の意味は大まかには分かっても、細かく見ると意味が取りにくい歌詞だと思います。
当たっているかどうか分かりませんが、出来るだけ文法的に見てみたいと思います。
(改行、ピリオッド、コンマは解釈に当たっては重大な要素ですが、歌詞カードのものは採用していません。どこまで信じていいか分からないので)
全文訳
第1連
I am just a poor boy 俺はどこにでもいる貧乏な男
Though my story's seldom told 俺の事なんて誰も話をしちゃくれないが
I have squandered my resistance さんざん反抗を繰り返してきたもんだ
For a pocketful of mumbles 言いたいことは山ほどあった
Such are promises,all lies and jest 約束だってそうだ、全部ウソやおふざけだ
Still, a man hears what he wants to hear
それでも、聞きたいことだけきいて
And disregards the rest あとは聞こうとしないからまた騙される
Hum
第2連
When I left my home and my family,I was no more than a boy
故郷や家族を棄てた時、俺はただの子どもだった
In the company of strangers in the quiet of the railway station
駅の静けさの中、見知らぬ人に囲まれて
Running scared,laying low, seeking out the poorer quarters
俺は怯え、身を潜め、貧しい地区を探し出した
Where the ragged people go, ボロをまとってる連中が行くところさ
Looking for the places only they would know
そして連中だけが知ってる場所を探した
Lie la lie ....
第3連
Asking only workman's wages,I come looking for a job
ただの労働者並の報酬でもいいと仕事を探しに来ても、
But I get no offers. オファーは無い
Just a come-on from the whores on Seventh Avenue
7番街にたむろする娼婦達からの誘いがあるだけだ
I do declare there were times when I was so lonesome I took some comfort
there
白状するが、とても寂しい時があって、そこで慰めを得た事もある
Lie la lie ...
間奏
Lie la lie ...
第4連
Then I'm laying out my winter clothes そして今、冬服を出して拡げている
And wishing I was gone,going home
心の中じゃどこかへ行ってしまいたい、故郷に帰りたいと願いながら
Where the New York City winters aren't bleeding me
ニューヨークの冬のように金を搾り取らないところに
Leading me, going home 自分を連れて行くんだ、故郷に帰るんだ
第5連
In the clearing stands a boxer, 空き地の闘技場にボクサーは立つ、
and a fighter by his trade 戦うのが彼の仕事だ
And he carries the reminders of ev'ry glove that laid him down and cut
him
体に残る打撃痕は、彼を倒し傷つけたグラブの記憶を呼び起こす、
till he cried out in his anger and his shame,"I am leaving, I am leaving"
怒りと恥辱の中、彼は遂に”もうやめる、やめるんだ”と叫んだのだった
But the fighter still remains だが、彼がリングから離れる事はない
Hum Lie la lie ...

文法解釈
第1連
1.I am just a poor boy 俺はどこにでもいる貧乏な男
2.Though my story's seldom told 俺の事なんて誰も話をしちゃくれないが
3.I have squandered my resistance さんざん反抗を繰り返してきたもんだ
4.For a pocketful of mumbles 言いたいことは山ほどあった
5.Such are promises,all lies and jest 約束だってそうだ、全部ウソやおふざけだ
6.Still, a man hears what he wants to hear
それでも、聞きたいことだけきいて
7.And disregards the rest あとは聞こうとしないからまた騙される
1行目 あまり問題無いと思いますが、今現在は主人公はいわゆる少年ではないので、男としました。"少年"と違って、英語の"boy"は青年や場合によっては成人まで指す場合もあるので。"poor"は自分の事を可哀想というもの変なので、普通に貧乏という事に。実際そういう描写もあるので。
2行目、受動態、「滅多に語られない」の意味。従属接続詞"though"は後の3行目に掛かってるとしています。前に掛かると、意味的におかしいので。
3行目、"squander"は何かを浪費すること。この場合は、"resistance-抵抗、反抗"を今までずっと浪費してきた、と言うこと。これを、"mumbles-つぶやく事"をずっと押さえてきた、と解するのは、全体の内容に合わないので取りません。家を出てること、"I am leaving" などと叫んだりしてることを見れば、そんなストイックな人物とは思われないので。またたったそれだけの事なら、2行も使う必要は無い。不平は言わなかった、とかで十分。
4行目、文になっていませんが、"for"は理由を表す接続詞で、前の行の説明。文中に"there is,was"などが省略されたとみます。
5行目が難題で、これも文になっていないません。"Such"の意味、使い方として、代名詞として"そんなもの"の意味があって、
例文、"Such is life 人生とはそんなものだ"(ジーニアス英和辞典)
なんていうのがあるので、前半はそういう形だとしています。つまり、今までに行った約束についても"mumbles"がある、という意味。何故かというと、それら全てが、ウソや"jest-おふざけ、軽口、冗談"だったから。promises,lies,jest を同格で並んでいると見るのは内容的に無理。
ただ、この3−5行目は、ちょっと難解。特に4行目の扱いが今ひとつ分からない。
6行目、"still"、は"今でも"というニュアンスが入った、接続詞的な副詞。いままで騙されてきたが、今でも、人間の悲しい性で、良さそうな事ばかりに目が行って、そうじゃない部分を無視しがちだ、という意味に取っています。詐欺話はこんな心理を利用するもの。近年の最悪の詐欺である民主党のマニフェストも、この手を使った。
これは、自分が話しても人はまともには聞いてくれない、などという風にも取れますが、前3行の流れからして、ちょっと違う印象。
7行目、必ずしも"また騙される"としなくてもいいかもしれませんが、そんなニュアンスかなと。

第2連
1.When I left my home and my family,I was no more than a boy
故郷や家族を棄てた時、俺はただの子どもだった
2.In the company of strangers in the quiet of the railway station
駅の静けさの中、見知らぬ人に囲まれて
3.Running scared,laying low, seeking out the poorer quarters
俺は怯え、身を潜め、貧しい地区を探し出した
4.Where the ragged people go, ボロをまとってる連中が行くところさ
5.Looking for the places only they would know
そして連中だけが知ってる場所を探した
6.Lie la lie ....
1行目は問題無いと思います。"no more than=only 〜にすぎない"。
2行目、"company"は色んな意味がありますが、都会の雑踏や電車に乗っている見知らぬ人たちの群れの事か。
駅の静けさとは、意味が取りにくい言葉ではありますが、見知らぬ者同士の会話のない状態をさすのか。
3行目、"run+形容詞"で、ある状態になる、という意味か。"走る"とすると意味が不自然になってしまう。駅の中で怯えながら走る、かとも思ったけれど、それはやはり変。
"lay low"は俗語で、"lie low-身を潜める、体をかがめる"と同じ意味。"lie"は自動詞、"lay"は他動詞というのは基本だが、"lay"にも、自動詞としての用法がある。"poorer quarters" は周辺より貧しい地区。
4行目、"where"は前の行の"quarters"に掛かる関係副詞。
5行目、分詞構文。そして〜した、という形。
6行目、この繰り返しの意味は不明。昔は、オーイエイエ、とか、シャラララ、とかの意味無い言葉の繰り返しがよく使われました。カーペンターズの、"Yesterday once more"でも歌われているように。
この歌では本文に、"lay,lie"という言葉が何度も使われてるので、その関係で特に意味無く使ったのかもしれない。あるいは自分が今までやってきた事がウソだと否定したい気持ちの表れかも。

第3連
1.Asking only workman's wages,I come looking for a job
ただの労働者並の報酬でもいいと仕事を探しに来ても、
2.But I get no offers. オファーは無い
3.Just a come-on from the whores on Seventh Avenue
7番街にたむろする娼婦達からの誘いがあるだけだ
4.I do declare there were times when I was so lonesome I took some comfort
there
白状するが、とても寂しい時があって、そこで慰めを得た事もある
5.Lie la lie ...
1行目、2行目は、肉体労働の仕事を求めても無かった、という意味にも取れますが、ここでは、肉体労働並の報酬でボクサーとしての仕事を求めてもそういう申し出が無かった、と取っています。理由は、
※ いくらなんでもそんなに仕事が無いはずは無い
※ 現在形なので、すでにボクサーになっている今の状況を言っていると思う
※ "求める−ask"の目的語が、"仕事"ではなくて、"報酬-wages"だから
※ こういう身の上の人間ならば、そもそも肉体労働しかないはずで、わざわざそれをいう事もない
※ 肉体労働ならば、"offer"を受けるといった表現は大げさではないか。応募するだけのはず。
などから。断定は出来ませんが。
3行目は問題ないでしょう。
4行目、"do"は強調、"when"は関係副詞で"times"に係りますが、頭から訳しています。後半は"so〜that構文"の、thatが省略された形。

第4連
1.Then I'm laying out my winter clothes そして今、冬服を出して拡げている
2.And wishing I was gone,going home
心の中じゃどこかへ行ってしまいたい、故郷に帰りたいと願いながら
3.Where the New York City winters aren't bleeding me
ニューヨークの冬のように金を搾り取らないところに
4.Leading me, going home 自分を連れて行くんだ、故郷に帰るんだ
1行目、現在進行形なので、今現在の動作。
2行目は、"wish+過去形"なので、仮定法過去。現実と違う事を夢見る、希望する、という事。
3,4行目は、倒置されていると見ます。"lead+人+to+場所"の"to+場所"が、関係副詞"where"として"Leading"の前に出ている。"bleed+人"は"人から金を巻き上げる、搾り取る"の意味。この2行も、やはり2行目の"wish"に続いています。
4行目、"Leading"の主語はそうすると、2行目の"I"と取るしかない。若干不自然ではあるが。"bleeding me"と韻を踏ませたのだろう。

第5連
1.In the clearing stands a boxer, 空き地の闘技場にボクサーは立つ、
2.and a fighter by his trade 戦うのが彼の仕事だ
3.And he carries the reminders of ev'ry glove that laid him down and cut
him
体に残る打撃痕は、彼を倒し傷つけたグラブの記憶を呼び起こす、
4.till he cried out in his anger and his shame,"I am leaving, I am
leaving"
怒りと恥辱の中、彼は遂に”もうやめる、やめるんだ”と叫んだのだった
5.But the fighter still remains だが、彼がリングから離れる事はない
主語が、"I"から"he"に変わります。それまでの自分語りから、現実の只中にいる存在としてのボクサーが外から描かれます。
1行目は主語などが倒置されています。本来の語順は、"A boxer stands in the clearing"。
"clearing"は林などの中の空き地ですが、この場合は、スラム街などの空き地を指しているのでしょう。そこに作られたリングで戦う事になる。
2行目、"by one's trade"は、職業を指す。この行の"and"は特に意味は無い and。
3行目の"reminder"の解釈がこの詩で一番の難関。
元々の形は、"remind 人 of 物・事"、で人に何かの記憶を呼び起こすといった意味。
ここは"the reminders of every glove that〜(thatは関係代名詞)"なので、"〜な全てのグラブの記憶を呼び起こすもの"となって、自分を倒したグラブを思い起こさせるものを彼は常に持ち歩いている、あるいは身につけている、という意味になる。
"carry"は普通に持って運ぶ以外に、体につけている、などの意味がある。伝染病の保菌者を"carrier"というように。
普通、"reminder" は、メモ、ノート、手紙など。ネットオークションで、参加者に締め切りを知らせるメールもリマインダーと言う。"the+複数形"なので、何か具体的な物・事。
この場合は以下の条件を満たす物になる。
※ それを見ると自分を倒したパンチを想い起こすもの
※ 常に持ち運べる、身につけられるもの
※ 相手というよりは、相手のグラブを思い起こさせるもの。
※ 嫌な記憶なので棄てたいはずだが、棄てられないもの。
これらの条件に合う物は、顔や体に付けられた”傷跡”だろう。毎日鏡を見るたびに、試合に出る際に衣服を脱ぐたびに、その傷跡を見て、当時の記憶を蘇らせてしまうという事になる。
和訳は、この後に従属接続詞、"till"が続いているので、本来はそちらが先に来てしまい、訳文が長くなるので、頭から訳しています。
4行目、"I am leaving, I am leaving"は、"cry"の目的語に当たる。"in his anger and his shame"は挿入句。"leave"はどこかに行く、といった意味でもいいとは思うが、5行目との関係で、この場合は、職業を離れる、といった意味が妥当だと思われるので、上のようにした。現在進行形は近い未来を表す場合にも用いる。
5行目。色々な訳が考えられると思うが、取りあえず、上のようにした。まだ"fighter-戦士"としての仕事を続けている、という事。
kifuru(2012/3/26,30,4/8)
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